読了

鴻上尚史俳優になりたいあなたへちくまプリマー新書(2006) ISBN:4480687351
プリマー新書を読むのははじめてだ。たぶん、中高生向けを意図した新書なのだろう。ちくま新書の突っ走るすばらしき独自路線は(ときにおかしな方向に転げ落ちるものの)好感がもてるが、プリマー新書でもその勢いを失わないでもらいたいものだ。
さて、編集部の注文は、「中学生や高校生に、「どうやったら俳優になれるのか?」とか「俳優とは何か?」「縁起はどうしたらいいのか?」ということを、コンパクトに、そして分かりやすく書いてくれないか」ということだったとのこと。中高生にわかりやすければ、それはいうまでもなく大人にとってもわかりやすいはずだ。本書は中高生向けがうまくいった例だと思う。
時は2005年夏、場所は東京に向かう東北新幹線の車内。八戸市で開かれた高校演劇コンクール全国大会の審査を終え、帰路につく著者。そこに高校生の男女があらわれる。ショートヘアの頑丈そうな女子高生ユキちゃんと、色白でひょろっとしたマサシ君。本書は、東京に着くまでの間にかわされた著者と2人の高校生の対話である。
この対話は実話に基づくのか、それとも全くの空想か。あまりにできすぎた対話であるが、リアリティは失っていない。対話にうまく読者を巻き込み、それでいてメッセージをしっかりと届ける。劇作家・演出家たる著者の本領発揮というところか。(とはいえ、私は著者の作品を知らない(あるいは作品を知っていてもそれが著者の演出等だと知らない)ので、本領なのかどうかはよくわからないのだが。)
必ず何かになれるという絶対的な方法などあるわけはない。だからこそ、全く関係ないものになるための方法であっても、何がしか、刺激を受けるものである。俳優であれ何であれ、何かになりたいのならば、そこで大切なものは、技術的には大いに異なりえても、その本質は結局は変わらないのではないか。著者は、「才能とは夢を見続ける力」だという。それと同時に、「簡単に諦められるのなら、絶対にトライしちゃいけない」という。何事においてもそうなのかもしれない。自分の夢にトライするうえで最も大切なことは、夢を見続けられるかどうかということだろうか。