読了

長谷部恭男・杉田敦これが憲法だ!朝日新書(2006) ISBN:4022731141
朝日新聞社が新書を創刊するという。いまさら何で新書に参入するのだろうと首をかしげていたら、実際、創刊時の10冊には少し落胆した。朝日新聞社出版局の方針は「雑誌のような本をつくる」だとその昔に聞いたことがある。その方針は嘘でないのだろう。新書はハードカバーと違って、書店の新書コーナーに長く並べられる。それが最大の利点とも思える。だとしたら、なぜあえて旬の短い雑誌的なものを選ぶのか。新書濫造時代にはやむをえないことかもしれないのだが。
と思っていたら驚いた。本書はすごい。この本を企画した編集者に感謝する。細部を見ると雑な部分も多く、いろいろと言いたいことはあるのだが、構想自体には脱帽だ。憲法を論じるにあたって、長谷部恭男教授(憲法)と杉田敦教授(政治学)とを組み合わせるのはなかなか思いつかないのではなかろうか。なぜこの2人を組み合わせたのか、この発想はすばらしい。対談の妙味が良い具合に出ている。政治学から法律学への多彩な質問が、ところどころで思いもかけない発展を生んでいる。
帯のコメントの選び方にも秀逸さがある。「改憲派には、内閣法制局憲法学者憲法解釈を独占することへのいらだちがある(杉田)」に対して、「腹が立つ気持ちはよくわかりますが、憲法はそういうものだから我慢してください(長谷部)」と。「憲法はそういうものだから我慢してください」なんて、まさかそんな答え方があろうとは思わなかった。詳細は本文73〜75ページだが、本文の方がもちろん面白い。
内容については思うところがいろいろとありすぎる。久しぶりに面白い新書を読んだ。お願いとしては、読みやすさへの配慮に尽きる。個人的には楽しめたうえに学ぶところも大きかったが、楽しむには背景が必要な気がする。それに気を配るのが編集者の仕事ではなかろうか。