読了

河合香織セックスボランティア』新潮社(2004) ISBN:4104690015
戸惑わせる題名である。セックスとボランティアは相容れないものなのではないか、そんな気がした。だからこそ、どうしても読みたくなった。
「障害者の性」というタブーに挑んだ良質のルポルタージュである。取材を重ねる中での著者の意識の変化が行間に読み取れる。「障害者」という言葉を使うことで、どうしてもそこに何らかの先入観が生じる。取材を重ねるうちに、著者の先入観に疑問符がついていき、「障害者」という概念自体に違和感を感じてきたのではないか。この違和感に対して、いまだ正面からぶつかっていないように感じるのが、少し残念だ。著者の取材のもう一歩先にはどのような展望があったのか、「障害者」という概念を乗り越えた先にある次の一歩が読みたい気がする。
しかし、それは困難なのかもしれない。著者は取材を進めるなかで、「なぜあなたが障害者の性について取材をしているの?」という質問をたびたび受けたという。カバーには著者の写真もついているが、写真を見ても、経歴を見ても、たしかになぜなのか、不思議に感じてしまう。そこには何があったのか、著者も述べているように、「性に対する過剰な構え」が根底にあったのだろう。「障害者」というタブーを通すことによって、著者は自らの「性に対する過剰な構え」と向き合うことになっていく。本当に向き合っている対象に気づいてしまえば、もはや他者たる「障害者」は存在しえない。著者にとっての本当の取材対象は、取材を通してはじめて認識できた自分自身の「性」の問題だったのではないか。
本書に登場するボランティアやホストクラブオーナーの意識には、「障害者」を他者とみる視線が稀薄なのかもしれない。著者の当初の取材対象であった他者たる「障害者」は、実はそこには存在しなかったのかもしれない。存在しない対象を取材することで、本当の取材対象を見つけ出す、本書はその過程をつづったものなのだろう。他者意識が薄らぐことで、はじめて共感が可能になる。共感のうえにたつことで、やっと本当のテーマたる「性」の問題が、そこに浮かび上がってくる。本書の提起する問題は、決して「障害者」の問題ではない。そこにあるのは、誰にでもある「性」の問題なのだ。