読了

藤沢秀行『碁打秀行』角川文庫(1999) ISBN:4043474016
私の履歴書。それにしてもむちゃくちゃな人である。
しかし、碁に関しては、やはりすばらしい人物なのだろう。「碁は芸である」と述べ、「芸を磨くことがプロのつとめ」という。ここまでなら、何も驚かない。しかし、「勝ち負けは結果にしかすぎない。芸が未熟なら負ける。相手より芸がまさっていれば勝つ。ただ、それだけの話である。/もちろん、私とて勝ちたいと思うけれど、勝敗にはあまりこだわらない。勝負という狭い枠に、自分を閉じ込めたくないのである。芸というのは、もっと広い発想から生まれるものだろう。自由奔放な発想なくして、芸を高めることはできないと思っている」。この発言はなかなかいえないと思う。この本を読むかぎり、著者は本当にそういうつもりで碁を打ってきたのだろう。
勝敗をこえたところにある「芸」とは何だろうか。一局一局の勝敗ではなく、碁そのものと向き合うことこそ、「芸」なのだろうか。道を究めることに結果は関係がないのかもしれない。だからこそ、究めたのかどうかについて、客観的な評価は不能となる。「芸」とは、全身全霊をかけた、一生涯続く鍛錬なのか。
結果志向とはまた別の生き方を垣間見れた気がする。最近は結果志向の思考法にとらわれた観があったが、これで幾分か中和されるかもしれない。