読了

関口すみ子国民道徳とジェンダー東京大学出版会(2007) ISBN:9484130301428
本書は、序で著者が述べるとおり、「日本における「国民道徳」という思想の形成過程とその後の経緯を、家族と国家との関係、そこにおけるジェンダー(男/女)の機能の仕方に着目し、こうした思想と深く関わる三人の思想家、福沢諭吉井上哲次郎和辻哲郎を軸に、追っていくものである」。
個人的には、福沢・和辻の部分が特に面白かった。しかし、それは両者については先行研究も多く、私自身が予備知識を備えているからかもしれない。というのも、私が感じた面白さは、従来の私の福沢観・和辻観とは異なる角度から、両思想家に光を当てていることかもしれないからである。
やはり、本書の新しさは、井上哲次郎にあるのだろう。著者も述べているとおり、井上に関する先行研究は少ないようだ。私はひとつも知らない。そのため、私自身の井上像がない。だからこそ、福沢・和辻に関して抱いた面白さは、井上について抱きようもない。
本書の主な議論の対象となるのは、教育勅語、なかでも「夫婦相和シ」である。勅語以前として大きな存在である福沢、勅語の公定解釈書を作った井上、そして井上失墜後として藤井・和辻をとりあげる。敗戦まで続いた宗教なき道徳の思想的経緯を追った好著である。