読了

中沢新一僕の叔父さん 網野善彦集英社新書(2004) ISBN:4087202690
歴史学者網野善彦の義理の甥である著者の追悼文。著者と網野の出会いから始まり、各章が網野の『蒙古襲来』、『無縁・公界・楽』、『異形の王権』にあてられている。
著者は「あとがき」の末尾で、「事実の正確さと「オルフェウスの技術」を結合することが、この本での私の挑戦だった」と述べる。「オルフェウスの技術」とは、古代人が亡くなった人々や忘れ去られようとしている歴史を、現在の時間の中に生き生きと呼び戻そうとする技術らしい。「事実の正確さ」については、知りうべくもないのだが、少なくとも「オルフェウスの技術」に対しては成功しているように思える。著者の試みの成功が、この本の魅力になっている。
この本は第3章までと比べて終章が薄い。著者からみた網野との交わりの回顧であるのだから当然ともいえようが、この終章の薄さがこの本のよさを引き立てているように思える。終章には書かれなかったことがあるに違いない。この書かれなかったことが何なのかは、一読者にはわかるはずもない。だが、それが書かれなかったことによって、著者の網野への思いがより強く感じられる。