読了

米原万里必殺小咄のテクニック集英社新書(2005) ISBN:4087203239
著者はエッセイストでもあるロシア語通訳。今年5月に逝去されたので、生前に出版された最後の書籍がこの本ということになる。本書のあとがきの重さは現実になってしまった。
さて、本書の内容だが、小咄のテクニックとしてはなかなかによくできた本だと思う。小咄を類型化しようという試み自体が珍しいわけで、面白く読めるうえに、文章術の練習にもよいかと思う。
ただ、いざ話が政治に及ぶと滞ってしまう。著者の政治的立場からすれば、小泉政権は本来、笑いの対象になりえないのではないか。著者の立場が真剣であるからこそ、その真剣さが笑いにすることを拒んでいる。政治的立場は人それぞれで、その多様性を認めることこそが大切だと思う。だが、著者の姿勢は自らの政治的立場の絶対性を信じているように思えてならない。自らの政治的立場を知らず知らずのうちに読者に強制してしまい、その強制が笑いを笑いでなくしている。政治も笑いの種になるだろう。だが、そうするためには、自分の立場を捨て去る必要があるのではないか。やや突き放した見方をしなければ、少なくとも万人に受け容れられる笑いは存在しえない。
また別の問題として、時事的な話題を織り込みすぎれば、将来の読者を得られなくなってしまう。政治の話題さえ取り除けば、題名どおりの面白い本だったのだが、残念でならない。