読了

筒井康隆ベティ・ブープ伝』中公文庫(1992) ISBN:4122019524
副題は「女優としての象徴 象徴としての女優」。ひっくり返して2つ並べたところが面白い。ベティ・ブープはアニメーションのキャラクターたる女優なのだから、女優でもあり、象徴でもあるわけで、なかなかの副題である。
解説によるともともとは雑誌連載をまとめたもののようだが、連載途中にいろいろと情報が寄せられたようだ。解説者(森卓也)も指摘のとおり、「とにかく書いて、書き進むうちにあらたな資料が手に入り、新事実に力づけられたり当惑したりという展開が、生き生きと楽しい」。著者が書きながら、新資料と接していき、筆致が微妙に変化していくのが、なかなかに楽しい。
著者はベティ・ブープを「ベティさん」と呼ぶ。この「さん」付け呼称が、著者とベティ・ブープの微妙な距離感を示している。これが伝記である以上、ベティ・ブープはその対象である。対象に対して「さん」の敬称をつけてしまうのが、ベティ・ブープの「実在」の象徴であると同時に、伝記作者としては中途半端な距離をあえてとったことを示唆しているのではないか。
ベティ・ブープの写真もふんだんにおさめられており、フィルモグラフィもついている。私はベティ・ブープについてほとんど何も知らなかったが、とても楽しめた。