読了

大村敦志民法総論岩波書店(2001) ISBN:4000260308
岩波テキストブックスの1冊であるが、あまりテキストブックという感じがしない。法律学ときいて一般に想像されるような類の本ではないからであろう。法律の解釈や適用ではなく、民法典自体から一歩引いて、改めて民法全体を眺めているように思う。著者は、「以下において私が考えてみたいのは、民法民法学の全体像についてである。本書が『民法総論』と題されているのは、そのためである。」と述べる。
「総論」というのはどういう意味なのだろうか。たしかに、全体像をつかもうとする視点はわかるのだが、本書が全体像を示しているとは思えない。本書はあくまで、全体像をつかもうとした著者の、民法に対する断片の集合であろう。寄せ集めの感は、「総論」という題名の強さに対して、若干の違和感を覚える。
とはいえ、「民法を一通り学び終えた学生を主たる読者として想定し、民法学習の総まとめのための素材を提供すること」という目的は十分に果たしていると思われる。民法典から一歩引いた、メタ民法学とでもいうべき視点は、積み上げてきた学習の総まとめに適している。
だが、それが「テキストブックス」のシリーズに、しかも「民法総論」という題名で収められるべきだろうか。やはり疑問を感じざるをえない。「テキストブックス」と銘打たず、「民法民法学を考える」というような、もっと素直な題名が適当だったのではなかろうか。