読了

森毅『数学受験術指南』中公新書(1981) ISBN:4121006070
題名を信じてはいけない。まず、本書は「数学」のみにあてはまることを論じているのではない。著者が数学者だから、数学の例が多いだけである。本書は受験とは何かについて考える絶好の材料であり、決して数学だけにとどまるものではない。
次に、本書は「受験術」を述べたものと言えるかどうか、かなり悩む。「術」とつくとハウツー本みたいだが、決してそんなものではない。そもそも高校3年生が本書を読んだところで、直接役に立つのかどうか。心構え的な部分は役立つかもしれないが、それはハウツー的興味には遠かろう。答案の書き方は参考になると思うが、答案作製法は「受験数学の最高段階」である。
最後に、本書は「指南」ではない。指南とくれば、教えてもらう印象を与えかねないが、本書は結局、何も教えてはくれない。ただ、著者の考え方が、場合によっては参考になるだけである。「指南」というよりは、「サテンのオヤジ」と話している雰囲気である。
しかし、本書の題名は、内容を見事に言い表している。これ以上の題名を思いつかない。題名は読む人を裏切ると同時に、読む人の期待にこたえる。内容も書名も、なかなかの1冊だ。