読了

松本人志『「松本」の「遺書」』朝日文庫(1997) ISBN:402261191X
週刊朝日』の連載をまとめたもの。単行本はベストセラーになった。ずいぶん前に古本屋の100円均一ワゴンで見つけてついでに購入したままだった。10年前のベストセラーなわけで、ちっとも期待していなかったのだが、見事裏切られた。これはなかなかに面白い本だ。
文章自体の巧拙を問うなら、決して上手ではない。だが、決して悪文でもなく、たいへん読みやすい。きっと自然に絶妙な間を作り出しているのだろう。「笑い」も言葉の仕事であり、そこでのセンスが文章にもうまく反映されたということか。
注目すべきは内容で、かなり充実している。ただ筆を滑らしただけの無意味なものは少なく、基本的に主張がはっきりしている。著者の専門分野たる「笑い」について、著者自身の感覚から世間の観方を覆すという、評論の基本形がここにはある。残念ながら後半4分の1くらいは少しエネルギーが落ちてしまった観が否めない。週刊誌に2年も連載し、前半部がベストセラーとして注目されてしまったのだから、ある程度は仕方がないのだろう。ここで連載を止めるという判断ができる著者の感覚はすばらしいと思う。
ところで、なぜ文字の色が32ページごとに変わるのだろう。ひょっとするとカラフルでおしゃれと思ったのかもしれないが、個人的にはただ読みにくいだけである。