読了

玄田有史仕事のなかの曖昧な不安』中公文庫(2005) ISBN:4122045053
本書の初版が出たのは2001年。2002年度のサントリー学芸賞を受賞。それから3年、なんと文庫化された。
中高年の雇用を既得権と言い切る著者の議論には、鋭さのうちに優しさがある。現代社会を論ずる際によくみられる暗さとは無縁である。「曖昧な不安」という影を引きずりそうな題名にもかかわらず、著者の主張には読者に前を向かせるだけの力があるように思う。
本書の力の源は若者への共感であろう。若者は社会にとっては新規参入者であり、従来からの参加者からはどうしても異端視される。異端たる若者に関して、著者はまじめに共感しようと努めているのではないか。共感の手段として、本書では2つの方法が試みられている。ひとつはデータである。データを分析することにより、主張はより強い説得力をもつ。もうひとつは実践である。それが終章およびエピローグである。そして、この終章こそ、著者の優しさのなせる業だと思う。
現代日本社会に関心のある方、特にニートに関心のある方・転職に関心のある方にはぜひとも読んでもらいたい1冊である。優しさが学問に生かされたときのすばらしさを味わうことができると思う。