読了

大村敦志家族法(第2版補訂版)』有斐閣(2004)ISBN:4641133743
判例タイムズ1095号89〜92頁に公証人梶村太市による本書の書評がある。梶村は本書について次のような感想を述べている。すなわち、本書は「複数の家族類型を再編成するという多元モデルの立場」にたちながら、「かなり婚姻家族側に強くシフト」しており、「本書はあくまで都会の市民の家族法だということである」。
この「都会の家族法」という言葉は言いえて妙だと思う。大村の描く家族法は、現代の都会の市民にとっての家族法なのだろう。民法核家族ををモデルにしているのだとすれば、確かに「婚姻家族」を中心に論ずるのは家族法の議論としては自然なのかもしれない。しかし、「婚姻家族」の議論が田舎ではぴったりと来ないのであれば、別のモデルも必要であり、それこそが「多元モデル」なのだろう。
とはいえ、梶村のいうように、「全ての家族類型にできるだけ等間隔で臨むのが、価値観が多様化している現在の国民の多くのニーズに応える所以ではないか」という考えには賛同しかねる。というのも、全ての家族類型に等間隔で臨むことはすなわち、どの家族類型にもコミットせず、結局のところどの家族類型からも受け容れられない立場になってしまう可能性が高いと思われるからである。いくら「多元モデル」をとるからといって、それは他の家族類型に対する「寛容」を示すだけのものであって、自らの分析までもが多元的であることを示すものではない。だとすれば、大村は自ら「都会の家族法」を選びとって、それに即した分析を展開したと考えるべきだろう。その分析は田舎では適合しないかもしれない。しかし、それは大村の分析の不十分さからくるものではなく、大村の分析の対象ではないからであろう。
ただ、大村は自らの分析が「都会の家族法」であることを認識していない可能性はある。本書を読むかぎり、分析の対象がはっきりとせず、曖昧なままだからである。梶村のような批判に対してはもちろん居直ればよいのだろうが、やはり対象の選択に関して、何らかのコメントがあってもよかったのではなかろうか。