読了

手塚治虫『ルードウィヒ・B(全2巻、未完)』潮ビジュアル文庫(1993) ISBN:4267013292,ISBN:4267013306
手塚治虫未完の絶筆。この後の展開はどうなるのだろうか。気になるところである。しかし、たったの2巻では、まだ物語は始まったばかり。出生時の事故によって歪んだ運命を背負い込んだフランツと、聴覚という音楽家にとって欠かせないものを失う恐怖におびえるルードウィヒ、不名誉の烙印によってなおさら貴族へとしがみつくフランツと、貴族に対する反感をもつルードウィヒ。あえて単純化してしまえばこういう構図を見ることはできる。しかし、この構図だけでは作品自体が自動的に展開するというものではない。展開するためには作者という存在が不可欠である。手塚治虫は構図から生じる展開力によって作品を書く作家ではないということだろう。もし、別の作家がこの続きを書いても、もはやそれは手塚治虫のルードウィヒ・Bではない。
第2巻の解説がまたしても萩尾望都である。萩尾の解説はいきとどいている。解説は明晰な論理的思考力がないとかけないだろう。萩尾は論理的思考力と創造力を兼ね備えた作家ということか。