読了

伊勢田哲治疑似科学と科学の哲学名古屋大学出版会(2003) ISBN:4815804532
疑似科学をテーマにした科学哲学の入門書のようだが、入門書にとどまらない良書だ。成功の理由のひとつは著者の文章力にあろうが、そのほか2つばかり理由があろう。第1に適切なテーマ選び、第2に研究書としての側面である。
まず、テーマ選びである。この本で取り扱われる主な疑似科学は、創造科学・占星術超心理学代替医療、いずれも胡散臭さを漂わせるものである。この胡散臭さが、読者に科学哲学への興味を抱きやすくさせているのではないか。入門書の役割は、その分野に少しでも関心がある読者に、より深い関心を抱かせることだと思うが、この本はそれに成功した良書だと思う。
次に研究書としての側面である。本書のテーマは、疑似科学と科学とはどうやって区別するのか、区別するときの境界線はどうやって引くのか、という問題である。この「線引き問題」(科学哲学の業界では「境界設定問題」というらしい)という問いに対して、「線を引かずに線引き問題を解決する」という著者の回答が提示されている。問いとそれへの回答があるという点で、この本は単なる入門書にはとどまらない。諸学説の紹介だけにとどまる入門書はとかく無味乾燥になりがちだが、本書は問いがはっきりしていて、著者の視点が明確であるため、諸学説の紹介も面白く読める。一見、入門書からはみ出すような試みが、入門書としての質を高めているのだろう。