今年の3冊

今年読んだ本のなかから印象に残った本を3冊選びたい。
読書というのは関係の産物なのだから、読者の状況によってその印象は大きく変わる。選んだ3冊は、どれも私自身の状況がその本を読むのによい状況だった気がする。どんなによい本だといわれていても、めぐりあわせが悪ければ、その読者にとっては必ずしも良書ではない。本との出会いの99%は運なのだろう。

<1>玄田有史仕事のなかの曖昧な不安』中公文庫(2005) ISBN:4122045053
<2>苅部直丸山眞男岩波新書(2006) ISBN:4004310121
<3>長谷部恭男・杉田敦これが憲法だ!朝日新書(2006) ISBN:4022731141

<1>と<2>はサントリー学芸賞受賞。<3>は最近の本だが、まあ賞とは無縁だろう。
<1>は読むタイミングがよかったと思う。もし、これをハードカバー出版直後に読んでいたとしても、これほどまで心に残る本にはならなかっただろう。この数年の変転が、私の視点を変えたのかもしれない。だが、ちょうどいいタイミングで読むことができたのは幸運だったのだろうか。今の自分の生き方、人生に対するスタンスは、この本によって大きく揺さぶられるとともに、この本が自分のスタンスを結果的に強化させたようにも思う。それが私にとって幸せなことかどうか、それは自分の一生を生きてみなければわかるはずもない。
<2>はその内容の面白さとともに、私に丸山への関心を喚起させてくれたことに感謝している。これまで、丸山に対しては、不十分な読み方しかせずに、その名前からくる印象から、なんとなく遠ざけていた。だが、この本はいつの間にか自分で勝手に貼っていたレッテルをはがしてくれた。そして、前向きになれなかった一時期、無為な時間を過ごさずにすんだのは、丸山を読もうと思ったからであり、それはこの本のおかげである。
<3>は今年創刊された朝日新書の1冊。正直、1冊の本として、もっと工夫の余地があったと思われる。それは著者の責任というよりは、出版社・編集者側の責任だろう。想定される読者層をどう想定して出版したのだろうか。なぜ、対談という形を選んだのだろうか。適当に処理して適当に進めた結果、偶然、私にとってはよい本になったにすぎないようにも思える。ただ、偶然とはいえ、この本を企画した編集者には、きっとすばらしい才能があるに違いない。編集者の次なるアイデアを待つとともに、さらなる成長を期待する。

最初にも書いたが、読書は関係の産物である。たった3冊だけを選ぶと、どうしても自分自身にどういう影響を与えたかという点が重視される。他の本からもさまざまな影響を受けたが、特に影響の強いものを3つ挙げた。<1><2>はすぐに決まったのだが、<3>を何にするかは実に悩ましい。結局、今年出版された本を選択した。因みに、他の候補は、森毅数学受験術指南中公新書(1981)、大嶽秀夫高度成長期の政治学東京大学出版会(1999)、萩尾望都イグアナの娘小学館文庫(2002)。