再読

星野英一民法のすすめ岩波新書(1998) ISBN:4004305365
以前から読み直そうと思っていたのだが、後回しになっていた。直接のきっかけは大村敦志民法総論』13ページの末尾、「本書は、ある意味では、同書〔星野『民法のすすめ』〕の私注であるともいえる」という記述である。新書の私注でテキストブックを書いた発想に驚くとともに、本書の再読の必要を改めて感じた。(なお、たしかに大村『民法総論』は本書の私注だと思う。本書をふまえて、少し異なった方向へ踏み出している。そう思うと『民法総論』もまた別の読み方が可能かもしれない。)
個人的にもっとも興味深いのは第1章だ。まず、「法」と「法律」の区別から始まる。この2つの別の概念はよく混同される。日本語ではそもそも両者の区別がないのか、法律家にも区別しない人もいる気がするが、こういう基本的な区別は大切にした方がよいと思う。著者もいうように、理論的な便宜もあるからだ。
そして何よりも第1章の末尾で、「思想」という言葉を使っている点である。法律家の一部には、「思想」という言葉を毛嫌いする雰囲気があるように思う。法律が純粋に論理的であり、「思想」という「いかがわしい」ものとは無縁の世界だと思っているのだろうか。もしそうならば、かなり独善的な信念の持ち主といわざるをえない。しかし、民法の大家たる著者は、臆することなく「思想」という言葉を用いる。きわめて正当だろう。そして、「『思想としての民法』の擁護」を唱える若手有力者として挙げられているのが大村敦志である。ここでまた『民法総論』に帰らねばなるまい。