読了

森毅『はみだし数学のすすめ』講談社+α文庫(1994) ISBN:4062560356
「元来、学校でおぼえた公式だの問題を解く手順だのは、学校を出たら忘れてしまうもので、それを何年もおぼえているのは、学校の先生だけだ。理屈の上からは、公式はおぼえなくても公式集に書いてあればすむし、解く手順も参考書を見ればすむはずだ。ところが人間はそれだけではだめである。一度はおぼえたことがある、一度はその手順を実行したことがある、その思い出が数学の世界を身近にする。そしてあとに残っているものは、たぶん、景色にたいする感覚ぐらいだろう。そして、それが本来の実力になる。」(27頁)
「自分の家のまわりも地図なしに歩けぬ人間が、信州の山へ行って地図なしで歩けるはずがない。やはり、迷ったりつまずいてどうということのない場所で、景色を見ながら迷い道から立ち直る癖をつけておいてもらわぬと困るのだ。」(34頁)
これはたぶん数学にかぎった話ではあるまい。「景色」という言葉にセンスを感じる。
他にも著者らしい随筆が楽しめるのだが、ちょうど勉強法について論じる機会があったばかりなので、この箇所にもっとも惹かれた。