読了

牧野剛河合塾マキノ流!国語トレーニング』講談社現代新書(2002) ISBN:4061496263
内容・題名のつけ方ともに現代新書っぽい。現代新書でないと出せない1冊だと思う。予備校教師が現代文の読解、小論文の作成についてわかりやすく説明している。国語という不思議な科目について、著者がいかに誠実に取り組んでいるかがよくわかる。
第1章・第2章は現代文の読解について述べられている。第1章では文章全体の構造を理解することを強調する。予備校教師が書いたものだから小手先の技術に走ると予想していたが、大いに裏切られた。構造の理解は読解の基本であるが、私の経験からすると、多くの場合、初等・中等教育ではそのトレーニングができていないと思われる。受験予備校が基本から読み方を鍛えているのはすばらしいことだ。だが、このトレーニングは一朝一夕で身につくものではなかろう。だとすれば、著者の長年の授業努力によってはじめてできることであり、本書を一読したのみではその技術はなかなか体得できないと思える。本書を読んで著者の方法論が理解できるのは、基本たる構造理解をこれまでなんとなくやってきた者だけなのではないか。
第2章では「コード読み」と名づけられた方法論が展開される。これは前章とは逆に、どちらかといえば小手先の技術である。だが、受験テクニックに堕することなく、読解として正統な技術である。文章を読む際には、自分のもつ教養をフル活動するわけで、そのなかの受験に役立つ部分をとりあげただけである。著者が誰か、最近はやりの議論は何か、これは本が好きな人ならば、当然チェックしていることだろう。読書人がふだん何気なくやっていることを、技術として抽出してしまうところが、本章の面白さである。
第3章・第4章は小論文に関して述べられている。この2章は、前2章と比べればやや消化不良の観が否めない。前2章ほど言語化に成功していないと思われる。著者の主張自体は前2章と変わらない。すなわち、いかにして論理構造のしっかりした文章を書くか、ということが論じられている。しかし、そこであげられた方法論はまだ発展途上なのではないか。言語化するにはまだ早すぎたように思う。本書のキーワードたる「ウロボロス型」といっても、読者にはどう書けば「ウロボロス」型になるのか、必ずしもイメージできないのではないか。起承転結を否定するだけでは、論理パターンを身につけさせることは難しい。
とはいえ、本書は科目としての国語・現代文に関する良書であることは間違いないだろう。この本は、国語教師の必読書のひとつになるのではないか。なお、本書は基本的には国語教師(あるいは科目としての国語に関心のある大学生・社会人)が読むべき本であり、受験生が読むものではないと思われる。だが、文体からするに、受験生を対象に書いているようにも感じる。読解法のトレーニングを受けていない人に、本でもって読解法を体得させるのは矛盾とはいわずとも、あまり効果的とは思えない。いっそのこと、受験生を想定読者からはずしてしまった方がよかったのではないか。