とある本屋の政治学コーナーで本を探していると、見知らぬおじさんから声をかけられた。政治学に興味があるならば渡部昇一がよいとのこと。こういうお節介は返答に困る。
渡部昇一に対する私の評価はさておき、彼はたとえ政治評論家であったとしても、政治学者では決してない。私のいた本屋の棚は政治学の棚であって、政治評論の棚ではない。たぶん、このおじさんにかぎらず一般的にそうなのだろうが、政治学と政治評論の区別がついていないのだろう。両者は全く異なるジャンルなのである。もちろん、政治評論を行ううえで政治学の背景があった方がよいことがかけたりもするのだが、それぞれのめざす方向性は基本的に異なっている。政治学は学問内在的に政治の現状への働きかけを秘めているものでは決してないが、政治評論はまさに働きかけであるところに価値がある。両者を一緒くたにされることには、きっと両者の立場から不満があるだろう。あえて附言するが、これはどちらが上とか下とかそういう問題ではない。ただ、志向が異なるのである。
かつて政治学を学んでいたものとしては、こういう勘違いはあまりうれしいものではない。この勘違いが極端になると、政治学を勉強すると政治家になれる、というおかしな結論をうむのではないか。とはいえ、なかにはそういう人もいらっしゃるんですけどね。まあ、かくいう私も秘書の資格をもってたりするわけで。