附記

岩井奉信『立法過程(現代政治学叢書12)』東京大学出版会(1988)ISBN:4130321021
厚生労働省から九州大学大学院法学研究院に出向していた中島誠の著書『立法学』(法律文化社(2004))ISBN:4589027666、岩井『立法過程』に関する簡単なコメントがあった。
「同書〔岩井『立法過程』−引用者注〕は、立法の動態を幅広い視点から明快に論じている点で高く評価できるものではあるが、①自民党単独与党、中選挙区時代の執筆であること、②政治学からのアプローチであることから当然かもしれないが、法理念・法規範的考察に乏しいこと(例えば、「『引き際』を心得た野党各党の対応と『ゴリ押し』を手控える与党の対応は、ミクロレベルでは『与野党の馴れ合い』と批判を浴びるかもしれないが、マクロレベルでは日本政治の安定に寄与したといえるのである」(144頁))といった問題点が指摘できる」(中島『立法学』15頁脚注30)
このコメントは、一見私のコメントと似ているようにも見えるが、中島のあげる2点目については全く異なるものである。私は、「法律・規則等への言及が少ない」とコメントしたが、これは決して「法理念・法規範的考察」を求めるものではない。岩井が『立法過程』でめざしたものは、「立法過程をめぐる国会内外の諸勢力のダイナミックスをも含めた体系的で実証的な分析」(酛頁)であって、法律学的な規範的考察ではない。岩井の分析に規範的考察を求めるのは、ないものねだりである(なお、中島も「政治学からのアプローチであることから当然かもしれないが」と留保をつけていることからすれば、わかっていたのかもしれない)。
私のコメントの意図は、法律・規則・先例といった法規範をも視野にいれた分析が可能なのではないかというものである。法規範も、それが機能しているかぎり、それは実証分析の対象たりうるはずである。もちろん、岩井は法律等を無視してはいない。しかし、より積極的に分析の対象としてもよいのではないかと考えたのである。中島のコメントは、規範的考察を過度に重視している気がする。