畑と駐車場

近所に畑があった。隣はスーパーマーケット、向かいは都市銀行。そこだけが周囲から取り残されていた。しかし、たまにそばを通ると、町のなかの違和感とともに、不思議な安堵感があった。
畑がなくなった。いつの間にか工事が始まり、そこは駐車場になった。今日はじめてここに来たのなら、きっと何の違和感もなかっただろう。町にとって、そこは畑ではなく、駐車場の方が似つかわしい。でも、私には、駐車場にこそ違和感がある。何か大切なものが失われたような気がした。
この町に来てもう9年になる。こんなに長く住むつもりはなかったのに、年月の流れははやい。町も少しずつ変わり、ふと気づくと、あの頃とは違った町になっている。近くのコンビニもなくなり、なじんだ店もなくなった。そして、畑もなくなった。
駐車場のアスファルトを見ると、畑の土が懐かしくなる。でも、いくら懐かしく思っても、もう元には戻らない。不可逆なときの流れは、大切なものを返してはくれない。あの頃の私はもう帰っては来ない。